- 保証人と連帯保証人って、何が違うの?
- 軽い気持ちで保証人になっても大丈夫?
- 根保証って、そんなに危険なの?
住宅ローンや賃貸契約、奨学金、あるいは知人の借金など、人生の様々な場面で「保証人」という言葉を耳にすることがあります。「大切な人から頼まれたら、断りにくい…」と感じるかもしれませんが、保証人、特に「連帯保証人」になるということは、想像以上に重い責任を負う可能性があることをご存知でしょうか。軽い気持ちで署名・捺印してしまった結果、後々大きなトラブルに巻き込まれ、自身の生活や人生設計が大きく狂ってしまうケースも少なくありません。
この記事では、「保証人」と「連帯保証人」の明確な違い、保証人になる際に必ず確認すべき注意点、万が一保証人になってしまった場合の対処法、そして特に危険性の高い「根保証」について、基本的な知識から具体的なリスクまで、詳しく解説していきます。保証人に関する正しい知識を身につけ、ご自身と大切な家族を守るためにも、ぜひ最後までお読みください。
保証人と連帯保証人:知っておくべき責任の違い
「保証人」と一言で言っても、実は法律上、大きく分けて「(単純)保証人」と「連帯保証人」の2種類が存在します。そして、この二つは、主たる債務者(お金を借りた本人など)が返済できなくなった場合に負う責任の範囲が、全くと言っていいほど異なります。どちらの種類の保証人になるのかを正確に理解しておくことが、リスクを判断する上で最も重要な第一歩です。
ここでは、「保証人」と「連帯保証人」それぞれの定義と、その責任範囲、法律上の権利の違いについて、分かりやすく解説します。
1.1 「保証人」とは?3つの権利(抗弁権・利益)
まず、単に「保証人」と呼ばれる場合(契約書に「連帯」の文字がない場合)について説明します。保証人は、主たる債務者が契約通りに返済や義務の履行をしなかった場合に、その人に代わって返済や義務を履行する責任を負います。
保証人が持つ3つの権利
ただし、保証人には、連帯保証人にはない、法律で認められた3つの権利があります。これらは、保証人の負担を軽減するための重要な権利です。まず一つ目は「催告の抗弁権」です。これは、債権者(お金を貸した側など)から返済請求を受けた際に、「まずは主たる債務者本人に請求してください」と主張できる権利です。債権者は、原則として先に主たる債務者に請求しなければなりません。
二つ目は「検索の抗弁権」です。これは、たとえ債権者が主たる債務者に請求しても返済されなかった場合でも、「主たる債務者には返済できるだけの財産(例えば預金や不動産など)があり、かつ強制執行(差し押さえなど)が容易であることを証明すれば」、保証人は「先に主たる債務者の財産から回収してください」と主張できる権利です。
三つ目は「分別の利益」です。これは、保証人が複数いる場合に適用されます。例えば、100万円の借金に対して保証人が2人いれば、各保証人は原則として、その半分の50万円ずつの返済義務しか負わない、というものです。債務全額ではなく、保証人の頭数で割った分だけを負担すればよい、という考え方に基づいています。これらの権利があるため、「保証人」の責任は、後述する「連帯保証人」に比べると、相対的に軽いと言えます。
1.2 「連帯保証人」とは?保証人より重い責任
次に、「連帯保証人」についてです。契約書に「連帯して保証する」といった文言がある場合は、こちらに該当します。連帯保証人は、その名の通り、主たる債務者と「連帯」して、つまり「同等の立場」で返済義務を負います。これが、単純な保証人との決定的な違いであり、責任が非常に重くなる理由です。
連帯保証人には権利がない
連帯保証人には、単純な保証人に認められていた「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」という3つの権利が、一切ありません。
これは何を意味するかというと、債権者は、主たる債務者の返済状況や財産状況に関わらず、いきなり連帯保証人に対して「全額を返済してください」と請求することができるのです。連帯保証人は、「まず本人に請求してください」とか「本人には財産があるはずです」といった主張をすることはできません。
全額請求のリスク
さらに、連帯保証人が複数いたとしても、「分別の利益」がないため、債権者はそのうちの誰か一人を選んで、債務の全額を請求することができます。例えば、1000万円の借金に連帯保証人が2人いても、債権者はどちらか一方の連帯保証人に1000万円全額の支払いを求めることが可能なのです(もちろん、支払った連帯保証人は、後でもう一人の連帯保証人や主たる債務者に負担分を請求する権利はありますが、回収できる保証はありません)。
このように、連帯保証人は、事実上、主たる債務者と全く同じ返済義務を負うことになり、その責任は極めて重いと言わざるを得ません。住宅ローンや事業資金の借入など、高額な契約で連帯保証人が求められるケースが多いですが、そのリスクを十分に理解する必要があります。
1.3 一目でわかる!保証人と連帯保証人の違い
これまで説明した「保証人」と「連帯保証人」の違いを、主なポイントで比較してみましょう。この違いを明確に認識しておくことが、保証契約を結ぶ際の最も重要な前提となります。
項目 | 保証人 | 連帯保証人 |
催告の抗弁権 | あり(まず本人に請求するよう主張できる) | なし(いきなり保証人に全額請求できる) |
検索の抗弁権 | あり(本人の財産からの回収を先に主張できる場合がある) | なし(本人の財産状況に関わらず返済義務を負う) |
分別の利益 | あり(保証人が複数いる場合、原則頭割りで負担) | なし(保証人が複数いても、一人に全額請求される可能性あり) |
責任の重さ | 連帯保証人に比べて軽い | 保証人に比べて非常に重い(主たる債務者とほぼ同等) |
主な利用場面 | 身元保証、比較的少額な債務、賃貸借契約(※近年は連帯保証が多い)など | 住宅ローン、事業性融資、奨学金、高額な賃貸借契約など |
このように、「連帯」という二文字が付くかどうかで、負うべき責任の範囲は天と地ほども異なります。保証人を頼まれた際には、契約書を隅々まで確認し、「保証人」なのか「連帯保証人」なのかを必ず確認し、その違いを正確に理解した上で、引き受けるかどうかを慎重に判断する必要があります。特に「連帯保証人」になるということは、自分が借金をしたのとほぼ同じ状況になる可能性がある、ということを肝に銘じておくべきでしょう。
保証人になる前に!必ず確認すべき5つの注意点
保証人、特に責任の重い連帯保証人になることは、あなたの将来の経済状況や人生設計に大きな影響を与えかねない、非常に重要な決断です。親しい人から頼まれたとしても、安易な気持ちで引き受けるべきではありません。
ここでは、保証人になることを検討する際に、必ず確認し、慎重に判断すべき5つの注意点について解説します。これらの点を十分に検討せずに保証人になってしまうと、後で取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。
2.1 契約内容を隅々まで確認する
保証人になることを依頼された場合、まず最も重要なのは、保証契約書の内容を隅々まで、一言一句確認することです。口頭での説明だけでなく、必ず書面で契約内容を確認し、理解できない点や不明な点があれば、署名・捺印する前に必ず解消しておきましょう。
確認すべき重要項目
特に以下の項目は、注意深く確認する必要があります。
- 保証の種類:まず、「(単純)保証人」なのか、それとも「連帯保証人」なのかを明確に確認します。前述の通り、責任の重さが全く異なります。
- 保証する金額(主たる債務の元本):いくらの金額の債務を保証するのか、元本の金額を確認します。
- 保証する範囲:元本だけでなく、利息、遅延損害金、違約金なども保証の範囲に含まれるのかを確認します。これらを含めると、実際の負担額は元本よりもかなり大きくなる可能性があります。
- 保証期間:いつまで保証人としての責任を負うのか、保証期間が定められているかを確認します。特に根保証(後述)の場合は注意が必要です。
- 主たる債務の内容:どのような種類の債務(借金、賃貸借契約など)を保証するのか、その内容を理解します。借金であれば、借入金額、金利、返済方法、返済期間なども確認しておきましょう。
- 特約条項:何か特別な条件が付加されていないか、不利な条項が含まれていないかなども確認します。
もし契約書の内容が複雑で理解が難しい場合や、少しでも不安を感じる場合は、契約する前に弁護士などの法律専門家に相談し、内容を確認してもらうことを強くお勧めします。
2.2 主たる債務者の返済能力を把握する
保証人は、主たる債務者(お金を借りる本人など)が返済できなくなった場合に、代わりに返済する責任を負います。したがって、保証人になるかどうかを判断する上で、主たる債務者の経済状況や返済能力をできる限り正確に把握しておくことが非常に重要です。
確認すべき債務者の状況
具体的には、以下のような点について、可能な範囲で情報を収集し、確認するようにしましょう。
- 収入と資産の状況:主たる債務者には、安定した収入があるか? 預貯金や不動産など、返済に充てられる資産はどれくらいあるか?
- 他の借入状況:今回の債務以外にも、他に借金(住宅ローン、カードローン、消費者金融からの借入など)はないか? あるとすれば、その総額や返済状況はどうか?
- 過去の返済履歴:これまでに借金の返済を滞納したり、金融トラブルを起こしたりした経験はないか?(信用情報機関への情報開示請求などで確認できる場合もありますが、本人の同意が必要です)
- 事業の状況(事業資金の場合):もし事業資金の保証人になる場合は、その事業の将来性、収益性、財務状況などを客観的に評価する必要があります。
返済困難リスクの判断
これらの情報を基に、主たる債務者が将来、返済困難に陥る可能性がどれくらいあるかを冷静に判断します。たとえ親しい間柄であっても、感情に流されず、客観的な視点を持つことが重要です。もし、返済能力に疑問がある、あるいはリスクが高いと判断される場合には、どんなに頼まれたとしても、保証人になることは避けるべきです。保証人になった後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、事前の情報収集と冷静な判断が不可欠です。
2.3 自身の返済能力を冷静に判断する
主たる債務者の状況を把握することと同時に、「もし万が一、主たる債務者が返済できなくなった場合に、自分自身がその債務を肩代わりして返済できるのか?」という、自分自身の返済能力を冷静に、そして厳しく評価することも絶対に必要です。
肩代わりした場合の影響をシミュレーション
保証契約書で定められた保証金額(特に連帯保証人の場合は債務全額)を、自分が代わりに支払うことになった場合を具体的に想像してみましょう。
- 現在の自分の収入や資産状況で、その金額を返済することは可能か?
- もし返済することになった場合、自分自身の生活(住居費、食費、教育費など)にどのような影響が出るか?
- 現在、自分自身にも他の借入(住宅ローン、自動車ローンなど)はないか? その返済に影響は出ないか?
- 将来のライフプラン(結婚、住宅購入、老後資金など)に、大きな支障は出ないか?
これらの点を具体的にシミュレーションし、もし保証債務を履行することになったとしても、自分自身や家族の生活が破綻しない、あるいは著しく困窮しないと言い切れるかどうかを判断します。
返済困難なら引き受けるべきではない
もし、シミュレーションの結果、「到底返済できない」「自分の生活が成り立たなくなる」と判断されるのであれば、保証人になることは絶対に避けるべきです。保証人になるということは、主たる債務者と同等のリスクを負う可能性がある、ということを常に念頭に置き、自身の返済能力を超えた保証契約は結ばない、という強い意志を持つことが重要です。
2.4 家族への相談と同意は必須
保証人になるという決断は、あなた個人の問題だけでなく、あなたの家族(配偶者、子ども、同居の親など)の生活にも大きな影響を与える可能性があります。万が一、あなたが保証債務を履行することになれば、家計が圧迫され、家族の生活水準を下げざるを得なくなったり、将来の計画(マイホーム購入、子どもの進学など)が頓挫してしまったりするかもしれません。
事前の十分な話し合い
したがって、保証人になることを検討する際には、必ず事前に家族と十分に話し合い、そのリスクと影響について説明し、理解と同意を得ておくことが不可欠です。
- 保証人になることのリスク(特に連帯保証人の場合、全額返済義務を負う可能性があること)
- 保証する金額と内容
- 主たる債務者との関係性や、その人の返済能力についてのあなたの考え
- もし自分が返済することになった場合の、家計への具体的な影響シミュレーション
これらの情報を包み隠さず家族に伝え、家族全員が納得した上で最終的な決断を下すようにしましょう。
家族の反対を押し切らない
もし家族から反対された場合は、その理由を真摯に受け止め、決して無理に押し切るべきではありません。保証人になったことが原因で家族関係が悪化したり、最悪の場合、家庭崩壊に繋がったりするケースも少なくありません。家族の理解と同意は、保証人になる上での大前提と考えるべきです。
2.5 リスクが高い場合は断る勇気を持つ
保証人を頼まれる状況は、多くの場合、親しい友人、親戚、あるいは職場の関係者など、断りにくい相手からの依頼であることが多いでしょう。「困っている人を助けたい」「関係を悪くしたくない」という気持ちから、リスクを十分に理解しないまま、あるいは不安を感じながらも、つい引き受けてしまうことがあるかもしれません。
断ることの重要性
しかし、これまでの注意点で見てきたように、保証人、特に連帯保証人になることは、非常に大きなリスクを伴う行為です。契約内容に不明な点がある、主たる債務者の返済能力に疑問がある、あるいは自分自身の返済能力に不安がある、といったリスクが高いと判断される場合には、たとえ相手との関係性を考慮したとしても、きっぱりと「断る勇気」を持つことが極めて重要です。
断り方の工夫
断る際には、相手の気持ちを配慮しつつも、曖昧な返事をせずに、明確に断る意思を伝えることが大切です。「保証人にはなれないけれど、他の形で力になれることがあれば相談に乗るよ」といった代替案を提示するのも一つの方法かもしれません。
断ることは悪いことではない
保証人を断ることは、決して冷たいことでも、悪いことでもありません。それは、あなた自身の生活と、あなたの大切な家族を守るための、責任ある賢明な判断なのです。安易に保証人を引き受けた結果、共倒れになってしまうことの方が、双方にとって不幸な結果を招きます。人間関係も大切ですが、それ以上に自分と家族の将来を守ることを最優先に考え、リスクが高いと感じたら、勇気を持って断る決断をしましょう。
もし保証人になってしまったら?考えるべき4つの対処法
細心の注意を払っていても、様々な事情から保証人(特に連帯保証人)になってしまい、実際に主たる債務者が返済できなくなり、自分に請求が来てしまった…という状況に陥る可能性もゼロではありません。
もしそのような事態になってしまった場合、パニックにならず、冷静に対処することが重要です。ここでは、保証人として請求を受けた場合に、検討すべき4つの対処法について解説します。
3.1 主たる債務者との連携と早期相談
債権者から保証人として返済請求が来た場合、あるいは主たる債務者の返済が滞り始めたという情報を得た時点で、まず行うべきことは、主たる債務者本人と連絡を取り、状況を確認し、今後の対応について相談することです。
状況の確認
主たる債務者がなぜ返済できなくなったのか、その理由(失業、病気、事業不振など)や、今後の返済の見込み、現在の資産状況などをできる限り正確に把握しましょう。感情的にならず、冷静に事実を確認することが重要です。
協力して対策を講じる
その上で、主たる債務者と協力して、返済計画の見直しや、債権者との交渉、あるいは専門家への相談といった対策を講じることができないか話し合います。主たる債務者自身にも返済の意思があり、協力的な姿勢であれば、解決への道筋が見えてくる可能性があります。保証人が一方的に返済を肩代わりする前に、まずは主たる債務者自身が責任を果たせるよう、連携して働きかけることが第一歩となります。
3.2 債権者との返済交渉
主たる債務者の返済が困難であり、保証人として返済義務を履行しなければならない状況になった場合でも、すぐに全額を支払えない場合があります。そのような時は、債権者(お金を貸している金融機関など)と交渉し、返済条件の変更(返済期間の延長や、月々の返済額の減額など)を求めることも選択肢の一つです。
交渉のポイント
交渉を行う際には、まず現在の自分の経済状況(収入、支出、資産、他の借入状況など)を正直に伝え、一括での返済が困難であること、しかし返済の意思はあることを明確に示すことが重要です。そして、自分であればどのくらいの金額なら、どのくらいの期間で返済できるのか、具体的な返済計画案を提示し、交渉します。
交渉の可能性と限界
債権者側も、全く回収できないよりは、多少条件を変更してでも回収できた方が良いと考える場合があるため、交渉に応じてくれる可能性はあります。ただし、必ずしも交渉が成功するとは限りませんし、特に遅延損害金が膨らんでいる場合などは、交渉が難航することも予想されます。交渉がうまくいかない場合や、自分だけで交渉するのが不安な場合は、次のステップである専門家への相談を検討しましょう。
3.3 弁護士など専門家への相談
保証債務の問題は、法律的な知識が必要となる複雑なケースが多く、自分だけで解決しようとするのは困難な場合があります。特に、請求されている金額が大きい場合や、債権者との交渉がうまくいかない場合、あるいは自身の返済能力を超えていると感じる場合には、できるだけ早い段階で弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家ができること
専門家に相談することで、以下のようなサポートが期待できます。
- 法的なアドバイス:あなたの状況における法的な権利や義務、取り得る選択肢について、専門的なアドバイスを受けることができます。保証契約の内容に問題がないか、無効や取消を主張できる可能性はないかなども検討してもらえます。
- 債権者との交渉代理:あなたに代わって、債権者と返済条件の交渉を行ってもらうことができます。専門家が間に入ることで、より有利な条件で和解できる可能性が高まります。
- 債務整理の手続き:もし、保証債務の返済がどうしても困難な場合には、債務整理という法的な手続きを検討することになります。専門家は、任意整理(債権者と直接交渉して返済額や方法を見直す)、個人再生(裁判所に申し立てて借金を大幅に減額し、分割返済する)、自己破産(裁判所に申し立てて借金の支払義務を免除してもらう)といった手続きの中から、あなたの状況に最も適した方法を選択し、その手続きをサポートしてくれます。
相談窓口
弁護士や司法書士への相談には費用がかかりますが、法テラス(日本司法支援センター)や、自治体の無料法律相談などを利用できる場合もあります。一人で悩まず、専門家の知見を借りることが、問題解決への確実な道筋となります。
3.4 時効の援用という可能性
保証契約に基づいて発生した保証債務(保証人が代わりに返済する義務)にも、法律上の「時効」が存在します。時効とは、一定期間、権利が行使されない状態が続いた場合に、その権利が消滅するという制度です。もし、保証債務の時効期間が満了している場合、保証人は「時効を援用する」という意思表示を債権者に対して行うことで、返済義務を免れることができる可能性があります。
時効期間
保証債務の時効期間は、原則として、債権者が保証人に対して権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間のいずれか早い方とされています(2020年4月1日施行の改正民法による。それ以前の契約は異なる場合があります)。
時効の中断(更新)と援用
ただし、注意が必要なのは、時効期間中に債権者から裁判上の請求があったり、保証人自身が債務の存在を認めるような行為(一部返済、返済猶予の申し出など)をしたりすると、時効の進行がストップ(時効の中断・更新)してしまうことです。時効期間が経過したとしても、保証人自身が「時効なので支払いません」という意思表示(時効の援用)を、通常は内容証明郵便などで行わなければ、返済義務はなくなりません。
時効が成立しているかどうか、そして時効を援用できるかどうかは、個別の契約内容や経緯によって判断が異なります。もし、長期間請求を受けていない保証債務があるような場合は、安易に債権者に連絡したり、一部でも返済したりする前に、必ず弁護士などの専門家に相談し、時効の可能性について確認することをお勧めします。
保証人に関するQ&A:よくある疑問を解消!
保証人や連帯保証人に関しては、様々な疑問や誤解が生じやすいものです。ここでは、保証人に関するよくある質問とその回答をQ&A形式でまとめました。正しい知識を身につけ、保証人に関する不安や疑問を解消しましょう。
Q1. 保証人は主債務者の借金を全て負う?
A1. いいえ、必ずしも「全て」の借金を保証人が負うわけではありません。まず、「(単純)保証人」の場合は、原則として「分別の利益」があるため、他に保証人がいれば、保証人の数で割った金額のみを負担します。また、「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」も行使できる可能性があります。
ただし、「連帯保証人」の場合は、これらの権利がなく、主たる債務者と全く同じ立場で、借金の全額(元本、利息、遅延損害金など全て)について返済義務を負います。債権者は、連帯保証人の誰か一人に全額を請求することができます。
重要なのは、主たる債務者が契約通りにきちんと返済している限りは、保証人や連帯保証人に請求が来ることはない、ということです。問題となるのは、あくまで主たる債務者が返済できなくなった場合です。
Q2. 保証人を途中で辞められる?
A2. 原則として、一度有効に成立した保証契約を、保証人が一方的に解除したり、途中で辞めたりすることはできません。保証契約は、債権者と保証人の間の契約であり、保証人は主たる債務者の返済を担保するという重要な責任を負っているためです。
ただし、例外的に保証人を辞めることができるケースもあります。例えば、債権者、主たる債務者、そして保証人の三者全員が合意すれば、保証契約を解除することは可能です。あるいは、代わりとなる新しい保証人を立て、債権者の承諾を得て、保証人の地位を引き継いでもらう、といった方法も考えられます。
また、保証契約そのものが、詐欺や錯誤などによって無効であったり、取り消せる場合も理論上はありますが、これを証明するのは容易ではありません。基本的には、一度保証人になったら、契約期間中は責任を負い続けると考え、引き受ける際にはその覚悟が必要となります。
Q3. 主債務者が自己破産したら保証人は?
A3. 主たる債務者が自己破産し、裁判所から免責許可(借金の支払い義務を免除する決定)を受けたとしても、保証人や連帯保証人の返済義務はなくなりません。自己破産の効力は、原則として破産した本人にのみ及び、保証人には影響しないのです。
保証人に請求が集中するリスク
むしろ、主たる債務者が自己破産した場合、債権者は主たる債務者から借金を回収できなくなるため、保証人や連帯保証人に対して、残っている債務全額の支払いを請求してくる可能性が非常に高くなります。特に連帯保証人の場合は、いきなり全額請求されるリスクがあります。
保証人も債務整理を検討
もし、保証人自身もその保証債務を支払うことが困難な場合は、保証人自身も債務整理(任意整理、個人再生、自己破産など)を検討する必要が出てきます。主たる債務者の自己破産は、保証人にとって極めて厳しい状況をもたらす可能性があることを、十分に理解しておく必要があります。
Q4. 保証人になれる条件はある?
A4. 保証人や連帯保証人になるために、法律で定められた特別な資格が必要なわけではありません。しかし、債権者(金融機関など)は、万が一の際に代わりに返済してもらうことを期待するため、保証人となる人に対して、一定の条件を求めるのが一般的です。
一般的に求められる条件
多くの場合、保証人には安定した収入があり、十分な返済能力があると認められることが求められます。そのため、契約時には収入証明書の提出や、勤務先の情報、信用情報の照会などが行われることがあります。また、一般的に未成年者や、判断能力が不十分とされる成年被後見人、被保佐人、被補助人などは、有効な保証契約を結ぶことができないため、保証人になることはできません。
債権者の判断基準
最終的に保証人として認められるかどうかは、債権者の判断基準によります。主たる債務者との関係性(親族など)や、保証人の年齢、資産状況なども考慮される場合があります。保証人を頼まれたとしても、これらの条件を満たせず、債権者から承認されないケースもあります。
Q5. 保証人を探すのが難しい場合は?
A5. 住宅ローンや奨学金など、様々な契約で保証人が必要となる場面がありますが、近年では、親族などに保証人を頼むことが難しくなってきています。もし、保証人や連帯保証人を見つけるのが難しい場合でも、いくつかの代替手段が考えられます。
保証人不要のサービスの利用
まず、保証人自体が不要なローン商品や賃貸物件を探す、という方法があります。ただし、その場合、金利が高めに設定されていたり、家賃が高かったりするなど、条件がやや不利になる可能性があります。
保証会社の利用
次に、保証会社を利用するという方法です。これは、保証料を支払うことで、保証会社が保証人の代わりとなってくれる仕組みです。賃貸契約や一部のローンなどで広く利用されています。保証料はかかりますが、保証人を探す手間や、知人に依頼する心理的な負担を避けることができます。
その他の代替手段
その他、契約の種類によっては、担保(不動産など)を提供することで保証人が不要になる場合や、信用保証協会(主に事業性融資の場合)の保証を利用するといった方法もあります。保証人が見つからないからといって諦めずに、契約相手や金融機関に相談し、利用できる代替手段がないかを確認してみることが重要です。
【要注意】絶対になってはいけない「根保証」とは?
保証契約の中でも、特にリスクが高く、安易に引き受けるべきではないのが「根保証(ねほしょう)」、とりわけ「包括根保証」と呼ばれるタイプの保証契約です。この「根保証」の仕組みと危険性を理解しておくことは、自分自身と家族の財産を守る上で極めて重要です。
ここでは、根保証とは何か、その恐ろしさ、種類、そして法改正による変化と、避けるためのポイントについて詳しく解説します。
5.1 根保証の恐ろしさ:無限に膨らむ可能性
通常の保証契約(特定保証)では、保証する対象となる債務が、「〇〇銀行からの借入金△△万円(契約日:××年×月×日)」のように、契約時点で具体的に特定されています。保証人は、その特定の債務についてのみ、返済責任を負います。
不特定の債務まで保証
しかし、根保証は異なります。根保証とは、特定の債務だけでなく、将来発生する可能性のある不特定の債務までをも、まとめて保証する契約です。「包括根保証」となると、その範囲はさらに広がり、例えば「AさんとB銀行との間で、現在および将来発生する一切の取引から生じる全ての債務」といったように、保証する債務の種類や金額、期間に制限がない形で保証することになります。
知らない間に債務が増えるリスク
この根保証の最大の恐ろしさは、保証人が知らないうちに、主たる債務者が新たな借入を重ね、保証しなければならない債務の額が、保証人の予想を超えて雪だるま式に増えていく可能性があることです。特に、主たる債務者が事業を営んでいる場合、事業資金の追加融資、手形割引、さらには将来発生するかもしれない損害賠償債務など、あらゆる債務が保証の対象となり得ます。
多くの場合、主たる債務者が新たな借入をする際に、保証人に連絡や確認が行われるとは限りません。その結果、保証人は、自分がどれだけの債務を保証しているのか正確に把握できないまま、ある日突然、到底返済できないような巨額の保証債務の履行を迫られる、という悲劇的な事態に陥る危険性が非常に高いのです。
5.2 根保証の種類:包括根保証と限定根保証
根保証契約は、その保証範囲によって、主に2つの種類に分けられます。その違いを理解しておくことが重要です。
包括根保証:最も危険なタイプ
包括根保証は、前述の通り、保証する債務の種類、金額、期間などに一切制限がなく、主たる債務者が債権者に対して負う現在および将来の全ての債務を包括的に保証する契約です。「一切の債務」「全ての取引」といった文言が契約書に含まれている場合がこれにあたります。保証人にとってリスクが無限大に広がる可能性があるため、最も危険なタイプの根保証と言えます。
限定根保証:範囲は限定されるが注意は必要
限定根保証は、包括根保証とは異なり、保証する債務の範囲が一定の条件によって限定されている根保証契約です。限定の方法としては、以下のようなものがあります。
- 取引の種類による限定:例えば、「〇〇銀行との間の融資取引から生じる債務」のように、保証対象を特定の取引種類に限定します。
- 期間による限定:例えば、「契約日から5年間に発生した債務」のように、保証する期間を限定します。
- 金額による限定(極度額の設定):保証人が責任を負う上限額(極度額)を定めます。例えば、「極度額1,000万円」と定められていれば、保証人の責任はその範囲内に限定されます。
限定根保証は、包括根保証に比べれば保証範囲が明確になるため、リスクは相対的に低くなります。しかし、それでも不特定の債務を保証するという点では通常の保証(特定保証)よりもリスクは高く、特に極度額が設定されていない(あるいは非常に高額な)限定根保証には、依然として注意が必要です。
5.3 根保証に関する法改正(2020年施行)の内容
根保証、特に個人が保証人となる場合の包括根保証は、保証人に予期せぬ過大な負担を負わせるケースが後を絶たなかったため、社会問題となっていました。この状況を受け、2020年4月1日に施行された改正民法では、個人が保証人となる根保証契約(貸金等根保証契約)について、保証人を保護するための重要な規制が導入されました。
極度額設定の義務化
最も大きな変更点が、保証人が責任を負う上限額である「極度額」の設定が義務化されたことです。個人が保証人となる貸金等根保証契約(事業性融資の保証なども含む)では、契約書などの書面または電磁的記録で、具体的な極度額を定めなければ、その保証契約は無効となります。これにより、保証人は自分が最大でいくらまで責任を負う可能性があるのかを、契約時点である程度予測できるようになりました。
情報提供義務の強化
また、債権者の保証人に対する情報提供義務も強化されました。債権者は、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合(=返済を一度でも遅延するなどして、残額を一括で返済しなければならなくなった場合)には、その事実を保証人に通知しなければなりません。また、保証人から請求があった場合には、主たる債務の元本、利息、損害金などに関する情報を提供する義務も負うことになりました。
保証期間の制限(貸金等根保証)
さらに、貸金等債務(借金や手形割引など)を保証する個人根保証契約については、保証期間(元本確定期日)に関する規定も設けられました。保証期間の定めがない場合は原則3年、定める場合でも最長で5年を超えることはできなくなりました(ただし、更新は可能です)。
これらの法改正により、個人が根保証人となる際のリスクは、以前と比較してかなり軽減されました。しかし、法人が保証人となる場合や、法改正前に締結された古い根保証契約については、これらの規制が適用されない場合があるため、依然として注意が必要です。また、極度額が設定されていても、それが自身の返済能力を超えた高額なものであれば、リスクが高いことに変わりはありません。
5.4 根保証契約を避けるためのポイント
これまで述べてきたように、根保証契約、特に包括根保証は、保証人にとって極めてリスクの高い契約形態です。したがって、原則として、根保証人になることは絶対に避けるべきです。
契約前の確認事項
もし、あなたが誰かから保証人を頼まれ、提示された契約書に「根保証」に関する条項が含まれている、あるいはその疑いがある場合には、以下の点を徹底的に確認し、慎重に判断してください。
- 契約書を隅々まで読む:「根保証」「包括」「一切の債務」「継続的取引」といった言葉がないか、保証の範囲が将来の不特定の債務に及ぶような記載がないか、細心の注意を払って確認します。不明な点、曖昧な点があれば、絶対に署名・捺印してはいけません。
- 極度額の確認(個人の場合):個人が保証人となる場合は、必ず具体的な極度額が定められているかを確認します。定められていない場合は無効です。定められている場合でも、その金額が自分の返済能力を大幅に超えていないか、冷静に判断します。
- 保証期間の確認:保証期間がいつまでなのかを確認します。特に貸金等根保証の場合は、原則5年以内となっているかを確認します。
- 限定の有無:包括根保証ではなく、保証する債務の種類や範囲が具体的に限定されているかを確認します。
交渉と専門家への相談
もし、どうしても保証人を引き受けざるを得ない状況であったとしても、安易に根保証契約に応じるべきではありません。可能であれば、通常の特定保証契約に変更できないか交渉しましょう。それが難しい場合でも、限定根保証とし、極度額をできるだけ低く設定してもらう、保証期間を短くしてもらう、といった交渉を試みるべきです。
そして、少しでも契約内容に不安がある場合や、リスクの判断が難しい場合には、契約を結ぶ前に、必ず弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談し、契約内容のリスクについて客観的な評価とアドバイスを求めることを強くお勧めします。「断りにくいから」「まあ大丈夫だろう」といった安易な判断が、将来取り返しのつかない事態を招く可能性があることを、決して忘れないでください。
保証人のリスクを理解し 慎重な判断を
「保証人」になるということは、単に名前を貸すだけの軽い行為ではありません。特に「連帯保証人」や、極めて危険な「根保証人」になることは、時として自分自身や家族の人生を大きく左右しかねない、非常に重い責任を伴う決断です。
この記事では、保証人と連帯保証人の違い、保証人になる際の注意点、万が一の場合の対処法、そして絶対に避けるべき根保証のリスクについて詳しく解説してきました。安易な同情や人間関係のしがらみから保証人を引き受けてしまい、後で深刻なトラブルに巻き込まれるケースは後を絶ちません。
【要点まとめ】
- 保証人には「(単純)保証人」と「連帯保証人」があり、後者は責任が非常に重い
- 保証人には催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益があるが、連帯保証人にはない
- 保証人になる前には契約内容、主債務者の状況、自身の返済能力を必ず確認し、家族と相談する
- リスクが高い場合は断る勇気を持つことが重要
- 保証債務を請求された場合は主債務者と連携、債権者と交渉、専門家へ相談、時効援用などを検討
- 根保証(特に包括根保証)は将来の不特定債務まで保証するため極めて危険
- 2020年の民法改正で個人の根保証には極度額設定が義務化されたが、リスクがなくなったわけではない
- 根保証契約は原則として絶対に避けるべき
- 保証契約は内容を十分に理解し、慎重に判断することが不可欠
保証人を頼まれた際には、この記事で解説した内容を思い出し、契約書の内容を隅々まで確認すること、主たる債務者の状況を可能な限り把握すること、そして自分自身の返済能力を冷静に見極めることを徹底してください。そして、少しでも不安や疑問があれば、安易に引き受けず、きっぱりと断る勇気を持つことが、あなた自身とあなたの大切な人を守るためには不可欠です。
特に、「根保証」という言葉が出てきたら、最大限の警戒が必要です。原則として、根保証人には絶対になるべきではありません。もし、どうしても避けられない状況であれば、必ず弁護士などの専門家に相談し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じてください。この記事が、皆さんが保証人に関する正しい知識を身につけ、将来のトラブルを未然に防ぐための一助となれば幸いです。